中国・訪日ブームの陰で気づいた対日認識の根本的な欠陥 「知日」不足に悩む中国(前篇)
Wedge 9月19日(金)12時20分配信
2012年9月の尖閣諸島国有化に伴う中国の反日暴動から約2年が過ぎ、「尖閣諸島が領土紛争の地であって本来中国のものである」ことを国際的に印象づけようとする公船の侵入も半ば常態化してしまった。のみならず、同じ行為をベトナムやフィリピンにも振り向け、凄まじい緊張が引き起こされたことは記憶に新しい。
強まる中国の覇権志向
したがってこれは、単に中国が日本との歴史的関係に強烈な不満を感じて抗議し、「中国の正しい立場」を日本人にも理解させる云々というものではない。中国が、既に強大化した自国の都合に応じて周辺地域を含む秩序を変え、中国が主導し圧倒する地域・世界秩序をつくろうとしているのである。
習近平政権が掲げる「中国夢」外交の本質は、中国の超大国化・覇権国家化である。今年に入って繰り返されている「アジア人によるアジア人のためのアジア」という表現や、アジア開発銀行をよそに新たにアジアインフラ投資銀行を設立するという方針は、中国がアジアを代表して新しいアジアをつくるという意思表示である。また、去る7月の習近平のソウル訪問は、まさに「反日」という「共通の利益」を通じて韓国を中韓同盟に引き寄せようとしたものと明確に見て取ることができる。これは言わば、中国版のアジア・モンロー主義または東亜新秩序というべきものである。
そして昨今の所謂「外資叩き」は、中国が外資を優遇してその経営ノウハウや技術力を吸収する時代が終わり、むしろこれからは「中国市場の恩恵に与りたい外国企業は、中国の求めに応じて制裁金を払え」ということなのであろう。これは即座に、かつての朝貢貿易=外国がひたすら恭順を示し、珍奇な品を貢納品として差し出せば、はじめて中国の恩恵がもたらされるという手法を想起させる。習近平外交の望みは恐らく、中国を再び世界に君臨し尊敬を受ける「天朝」にすることなのであろう。
習近平政権が掲げる「中国夢」外交の本質は、中国の超大国化・覇権国家化である。今年に入って繰り返されている「アジア人によるアジア人のためのアジア」という表現や、アジア開発銀行をよそに新たにアジアインフラ投資銀行を設立するという方針は、中国がアジアを代表して新しいアジアをつくるという意思表示である。また、去る7月の習近平のソウル訪問は、まさに「反日」という「共通の利益」を通じて韓国を中韓同盟に引き寄せようとしたものと明確に見て取ることができる。これは言わば、中国版のアジア・モンロー主義または東亜新秩序というべきものである。
そして昨今の所謂「外資叩き」は、中国が外資を優遇してその経営ノウハウや技術力を吸収する時代が終わり、むしろこれからは「中国市場の恩恵に与りたい外国企業は、中国の求めに応じて制裁金を払え」ということなのであろう。これは即座に、かつての朝貢貿易=外国がひたすら恭順を示し、珍奇な品を貢納品として差し出せば、はじめて中国の恩恵がもたらされるという手法を想起させる。習近平外交の望みは恐らく、中国を再び世界に君臨し尊敬を受ける「天朝」にすることなのであろう。
世界最大の「親日」国家・中国?
手前味噌で恐縮だが、筆者はこのような趨勢をいわゆる「五千年の文明史」とからめ、『「反日」中国の文明史』(ちくま新書)としてまとめさせて頂いた。そして、中国のこのようなやり方を日本が拒むためには、何よりも日本がこれまで通りに衆智を集め、ソフト・パワーとしての魅力を高めて世界に貢献し、国際社会を広く味方につけるしかないことを示した。
そして実際中国の人々は、ソフト面では日本に多大な好意と感心を示さずにはいられない。尖閣問題の喉元を過ぎれば、中国市場に適応した日本企業の製品やサービスは売り上げを元に戻したし、日本語から翻訳された文化コンテンツの根強い人気は衰えることがない。上海地下鉄には、日本アニメ『ラブライブ』の全面ラッピング車両が出現し、中国の「御宅族」が側面に印刷されたQRコードを探してホームで跪くという奇観が伝えられもした。
しかも、彼らの日本に対する絶賛は、ことによると「中国こそ世界で最も親日なのではないか」と思わせるほどである。筆者が見聞した範囲でも、彼らは深呼吸できる清潔な空気と青空を絶賛し、顧客至上のサービスに感動し、何事も平穏に秩序立っているさまに新鮮なショックを受ける。
彼らは一応日本に到着するまでは、中国で反日暴動が吹き荒れたのと同じく、日本でも中国人であるがゆえに同じ被害を受けるのではないかと心配する。しかし実際にはそのようなことはないため、安心しきって日本を楽しみ、その見聞がブログや微博(ミニブログ)で事細かに語られる。そこで「ならば自分も、実際の日本はどうなのか。共産党のいう通りなのか見てみたい」という好奇心が加速度的に沸き起こり、日本旅行ブームが吹き荒れつつあると解釈できる(中国に限らず、急激な訪日客増加とネットの普及は切っても切り離せないだろう)。
かくして中国では、日本・外国を訪問できる富裕層ほど、より日本を冷静に見ることができ、そうではない貧困層ほど日本・外国に対して、共産党の宣伝を真に受けて強硬になるという図式が明確にある。相対的に貧困な「憤怒青年」は、現実の中国社会で明らかに存在感を示すソフトパワー・日本を直接見ることができる富裕層への嫉妬も含めて、日本への反発を強める。富裕層は多かれ少なかれ共産党とつながっていることから、共産党はそんな社会的な不満をそらすためにも、少なくとも国益というレベルでは反日ナショナリズム・外国叩きに依存せざるを得ない、と解釈することもできる。
そして実際中国の人々は、ソフト面では日本に多大な好意と感心を示さずにはいられない。尖閣問題の喉元を過ぎれば、中国市場に適応した日本企業の製品やサービスは売り上げを元に戻したし、日本語から翻訳された文化コンテンツの根強い人気は衰えることがない。上海地下鉄には、日本アニメ『ラブライブ』の全面ラッピング車両が出現し、中国の「御宅族」が側面に印刷されたQRコードを探してホームで跪くという奇観が伝えられもした。
しかも、彼らの日本に対する絶賛は、ことによると「中国こそ世界で最も親日なのではないか」と思わせるほどである。筆者が見聞した範囲でも、彼らは深呼吸できる清潔な空気と青空を絶賛し、顧客至上のサービスに感動し、何事も平穏に秩序立っているさまに新鮮なショックを受ける。
彼らは一応日本に到着するまでは、中国で反日暴動が吹き荒れたのと同じく、日本でも中国人であるがゆえに同じ被害を受けるのではないかと心配する。しかし実際にはそのようなことはないため、安心しきって日本を楽しみ、その見聞がブログや微博(ミニブログ)で事細かに語られる。そこで「ならば自分も、実際の日本はどうなのか。共産党のいう通りなのか見てみたい」という好奇心が加速度的に沸き起こり、日本旅行ブームが吹き荒れつつあると解釈できる(中国に限らず、急激な訪日客増加とネットの普及は切っても切り離せないだろう)。
かくして中国では、日本・外国を訪問できる富裕層ほど、より日本を冷静に見ることができ、そうではない貧困層ほど日本・外国に対して、共産党の宣伝を真に受けて強硬になるという図式が明確にある。相対的に貧困な「憤怒青年」は、現実の中国社会で明らかに存在感を示すソフトパワー・日本を直接見ることができる富裕層への嫉妬も含めて、日本への反発を強める。富裕層は多かれ少なかれ共産党とつながっていることから、共産党はそんな社会的な不満をそらすためにも、少なくとも国益というレベルでは反日ナショナリズム・外国叩きに依存せざるを得ない、と解釈することもできる。
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最終更新:9月19日(金)12時20分