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クルマを衝突させたら、車体が凹んだら依頼する先は・・・そう板金屋さん

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自動車鈑金職人が語る、鈑金の奥深さとは?

「一つとして同じ仕事がない」。この道46年のベテラン鈑金職人・安野禎彦氏が、自動車鈑金技術の奥深さについて語ります。
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 自動車のボディにできたヘコミや傷、錆を直して元通りにする自動車鈑金職人。かつては叩いたり溶接したりして直していたものが、現在では外板パネルごとそっくり交換するか、パテと呼ばれる樹脂をヘコミに埋め込んで直す方法が主流になりました。
今や少数派となってしまった「叩いて、溶接して直す」鈑金ですが、東京・町田に現在もこれまで通りの鈑金技法を守りつづける工房があります。安野鈑金社長の安野禎彦氏に話を伺いました。

パネル交換が中心の現在の自動車鈑金

安野禎彦氏。
アルファロメオ、いすゞなどの旧い乗用車の鈑金を得意とする。
確かな技術と気さくな人柄を慕って通う常連も多いとか。
【安野鈑金】0427-92-3329
 安野氏は今年で65歳。1962年に外車ディーラーの鈑金工見習としてスタートし、いくつかの工場で修業を重ねながら腕を磨きました。50歳の時に独立して「安野鈑金」を開業し、専ら旧い乗用車の鈑金修理を得意としています。
安野氏は語ります。
「鈑金作業は一つとして同じ仕事がない。そこが面白い所ですね」

一口に自動車鈑金といっても、実際の作業はクルマの状態によって全く異なります。製造時期による自動車用鋼板の性質の違い、オーナーの保管状況、使用年数、錆の進行度、他の鈑金業者による修理履歴などなど・・・。それらをクルマと対話しながら読み取り、対応していくのが鈑金職人の腕の見せ所です。
 「昔と今とではボディ鋼板の厚さから違います。今のクルマは軽量化するために厚さが0.6mmですが、昔はそれよりも厚くて0.8mmありました」
現在使用されている自動車用鋼板は強度の高い「高張力(ハイテンション)鋼」と呼ばれるもので、強度がある分薄くでき、軽量化に貢献します。しかしその反面、薄いために「加熱(溶接)する、叩く」といった古典的な鈑金方法が難しい、と安野氏は説明します。
アルファロメオ・ジュリア・スーパー。
【写真上】取材当日はボディの鈑金はほぼ終了し、
ドア部分の鈑金に移行していた。
【写真下】写真上の後輪の真後ろ部分、リアフェンダーと
呼ばれる所。路面からはねあがった雨水が鉄板を腐食して
グズグズに錆びていた。※安野氏撮影
 「今のクルマの鉄板に熱を加えると、残留応力が解放されてベランベランに変形しちゃって、モノにならないんですよね。その点、昔の車だと鋼板の性質が違うし、厚みがあるから熱をかけやすいのです」
安野氏によれば、現代のクルマの作りは、ボディ外板がへこんでもビスを緩めてパネルごと交換できるようになっています。製造工程上の理由もあるでしょうが、これは鋼板の性質が変わって従来の鈑金方法が困難になったためとも考えられるでしょう。パテによる鈑金が主流となったのも頷ける所です。

さて、安野氏の工場で現在鈑金作業が進められているのは、アルファロメオ・ジュリア・スーパー。1960年代に人気を博したイタリア製のスポーツセダンです。今回車体右後部分、リアフェンダー部と呼ばれる部分の錆が進行していました。
 次のページでは、実際の作業状況を見ながら、オーソドックスな鈑金技術について、さらに探求します。

鉄板と対話しながら

 右リアフェンダー部、タイヤハウス直後のロワー部分で錆が進行していたアルファロメオ・ジュリア・スーパー(前頁写真参照)。タイヤから跳ね上がった雨水が入り込み、長期間抜けずに溜まり続けたのがこの大きな錆の原因です。
現代の自動車鋼板には防錆目的の亜鉛メッキが施されており、錆が進行しにくいとされています。しかし、昔のクルマは防錆鋼板を使用していないこと、そして製造後の年数が経過していることなどにより、このように錆が大きく進行していることが多いのです。
切り落とした腐食部分を、補修用鉄板を用いて新たに成型し直す。
※安野氏撮影
 また、パネルごとそっくり交換できる現在のクルマに対して、当時はボディ骨格にパネルを溶接する方法が一般的で、パネルを交換するにも溶接部分を切り離して再度溶接するという面倒な工程が必要になります。
今回は、40年以上前のクルマということで交換用パネルの入手は困難ですので、補修用の0.8mm鋼板を使用して腐食部分を新規に作り直します。
鈑金作業の難しさを安野氏はこう説明します。
 「鋼板は加熱すると膨張して、予想できない動きをします。熱をかけすぎると膨張量が大きくなり、しかも冷えると膨張時以上に収縮します。鋼板にとって膨張と収縮を繰り返すのは好ましくないので、一気に溶接してしまうのがいいのですが、これが難しい」
【写真上】腐食部分に補修用鋼板を溶接し終えたところ。
大まかな成型も完了している。
【写真下】中央の溶接ラインに向かって鋼板が収縮し、
引っ張られている。このままだと凹凸が生じるので、
ハンマーで叩いて修正する。
※2枚とも安野氏撮影
 右下の写真をご覧下さい。溶接ラインが黒く横に走っていますが、このラインでの収縮が一番大きく、上下の鋼板はラインに向かって引っ張られ、緊張した状態です。このままでは鋼板にシワが生じて波打ってしまうので、ハンマーで叩いて平らになるように修正します。叩いては手のひらを滑らせ、凹凸を確認してまた修正する。この繰り返しです。

「溶接部分は『焼きが入った』状態なので、周りよりも硬くなっていたりする。そして残留応力のこともあるから、それらを念頭に置きながらの作業ですね。どうすれば分かるようになるかって? それは長年の経験ですね」
ちなみに溶接は現在一般的な電気溶接ではなく、酸素溶接を用います。電気溶接より低い温度で鉄板を接合できるそうです。
 このように、元のボディライン通りに鉄板を叩いて成型し、溶接するのは熟練の技術が必要ですし、時間もかかります。まさに自動車鈑金の「鈑金」たるゆえんですが、逆に言えば技術さえしっかりしていれば、わざわざ新しいパネルに交換しなくても「切り継ぎ」や「成型」で対応できるのが強みです。
交換部品の乏しいクラシックカーでも、時間と手間、費用を惜しまなければ、ボディに限ればほぼ原型どおりの修復が可能となります。

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