ホームに置き去りにされた車掌が、次の駅まで猛ダッシュで電車を追い掛ける珍事があった。14日午前0時10分ごろ、京浜急行電鉄北品川駅(東京都品川区)で、品川発京急川崎行き普通列車(6両編成)が、男性車掌(21)をホームに置いたまま、発車した。
 京急によると、車掌は電車最後尾の乗務員室のドアを開け、身を乗り出して安全を確認し、運転士にブザーで出発可能の合図を出した。しかし、ドアを閉める際にアナウンス用のワイヤレスマイクをホームに落としてしまったという。車掌がマイクを拾うために乗務員室から出た瞬間、電車が発車した。
 取り残された車掌は、ホームの最後尾から100メートル以上を急いで移動。改札を抜けると、線路と並走する国道15号を突っ走った。京急によると、当時の服装は車掌用の上着とズボン。靴は黒い革のビジネスシューズだった。
 次の新馬場駅(品川区)までは、ほぼ直線の約750メートルの道のり。車掌は改札を抜け、高架ホームまで急ぎ、置き去られてから約4分後の午前0時14分ごろ約3分前に駅に到着していた電車の乗務員室に復帰したという。安全確認や業務連絡などを行い、運転再開は予定時刻の約5分遅れの午前0時15分だった。このトラブルで乗客にけが人はいなかった。
 京急によると、車掌は車掌経験が約1年の若手。乗務員室には別のマイクはないという。マイクが使用できない場合は、笛による合図などの方法があるとし、同社は「本来は、運転士に発車可能の合図を出した後は、乗務員室から降りてはいけない。あってはならないことで、基本動作を再徹底させる」としている。
 ◆マラソンなら3時間7分台? 京急の6両編成の電車の長さは約108メートル。北品川駅と新馬場駅のホームや階段での移動距離を含めると、乗務員室から乗務員室まで、約900メートルを4分で走った計算。信号待ちのタイムロスを考慮しなければ、車掌の足の速さは単純計算で時速13・5キロ。マラソンなら、3時間7分台と、市民ランナーなら上級者の「サブスリー(3時間未満)」までもう少しというタイム。
 ◆京浜急行電鉄 1898年、大師電気鉄道として設立。翌99年、六郷橋~大師間の2キロで営業し、社名を京浜電気鉄道に。1931年、野毛山をトンネル開通し、高輪~浦賀間がつながる。48年から現社名に。従業員1815人。原田一之社長。