30代半ばから卵子の老化と40代精子の機能と運動低下は・・・

　女性は三十一歳で、不妊専門のクリニックを受診した。結婚して五年。子に恵まれなかったからだ。

　検査したが卵管などに異常はなく、結果は「原因不明」。夫にも問題はなかった。排卵に合わせて濃縮した精液を子宮に注入する人工授精や、もうしばらく経過を見るなどの選択肢が示された。

　どうすればいいか分からず、自然に妊娠するとの期待から、そのまま足が遠のいた。

　年を重ねるごとに、卵子が老化し、妊娠しにくくなることを知ったのは、三十八歳のとき。確率の低さに驚き、人工授精より高度な体外受精の治療を始めた。その後、卵巣の状態を示す値が実年齢より高いことも検査で知った。これまでに十回以上採卵し、約三百万円を費やした。「個人差の大きさや、卵子の老化の正しい知識が広まってほしい」。後に続く人のため、女性は切に願う。

　　　　　◇

　体外受精など高度な不妊治療の結果について、日本産科婦人科学会の二〇一〇年の統計では、女性が三十代半ばを過ぎると、出産しにくくなり、四十代になるとさらに確率が下がる＝グラフ。国立成育医療研究センター不妊診療科の斉藤英和医長によると、加齢に伴い、採れる卵子は減り、受精しても卵子がうまく発育しない率が上がる。男性も四十歳を超えると、妊娠率が下がる。

　一方、高度な治療を受ける女性で、四十歳以上の人は、〇七年の３１・２％から一〇年には３５・７％に増えた。治療技術が進歩しても、出産に至りにくい状況が生じている。背景には晩婚化や、これまでなら諦めていた人が治療を受けるようになったことがあるとみられる。斉藤さんは「若い時期に、妊娠を考えられる社会基盤の整備が必要。社会が不妊を教えてこなかった影響も大きい」と指摘。昨年から都内の大学に出向き、学生に不妊にかかわる事実を伝えている。