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原発事故は放射線だけか!

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    原発事故は放射線だけか!




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皆様も我が身を被災者・罹災者に置き換え一考してみませんか!?

以下転載 (11年04月18日記事より)
◇社会的要因が健康状態に与える影響◇
福 島第一原子力発電所の事故が健康に与える影響が社会的な問題となっている。放射性物質が大気中に、そして海に放出され、外部被爆や食品などを摂取した場合 の内部被爆が心配されている。こうした問題に答えるのは医学者であって、経済学者やエコノミストが答えを出すわけにはいかない。しかしながら、放射性物質 や放射線だけに注目して健康を論じるのは視野狭窄ではないか、という点を社会保障や医療経済など、比較的、医学・公衆衛生学に近い分野の研究者として指摘 したい。

そもそも人々の健康状態は何に依存して決まるのであろうか。だれしも思いつくのは衛生状態や生活習慣であろう。被災地の避難所では日常生活と異なり、多数の人が共同生活をしている上に、衛生用品の不足で感染症の流行が心配された。また、高齢者が体を動かす機会が減る「閉じこもり」になると、加齢による筋力の低下と運動不足があいまって、足腰が弱くなり、転倒などを引き起こすロコモティブシンドローム(廃用症候群)が心配されている。

これらの要因も重要であることは間違いないが、健康状態を規定する要因として、最近着目されているのは社会的要因である。Kagan et al.(1974)では、遺伝的には同じ要因をもっている日本人とサンフランシスコやハワイの日系人とを比較した上で、社会的結束が冠動脈性心疾患(心筋梗塞)に影響を与えることを示唆している。

また、House(1988)は、社会的に孤立している人ほど、死亡率が高いことを指摘している。日本においてもIchida et al.(2009)が、他人への信頼感と所得格差、主観的な健康水準とのあいだに相関があることを示唆している。つまり、長期間の避難のあいだに、それまで築かれてきた人間関係が破壊されると、健康にも大きな影響を及ぼすことが予想される。

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◇チェルノブイリ原発事故の事例から学ぶ◇
今回の原発事故と類似の事例は人類史上一度だけ、チェルノブイリ原子力発電所の事故であるが、じつはここで指摘したことはチェルノブイリ原発周辺でも生じていた。

チェルノブイリ・フォーラム(IAEAやWHO等から構成)が作成した報告書によると、皮肉なことに事故後に自ら村に戻った住民の方が、より放射能の影響を受けていない地域に移住した住民よりも心理的な状態が良かったという。(ただし、肉体的な状態についてはこの報告書では触れられていないので、元の場所に戻る方が総合的にみて健康を損ねる可能性は否定されていない。)その理由について報告書では触れられていないが、おそらくは知らない土地で過ごすストレスが健康に悪影響を与えたのではないだろうか。

さらには、ウクライナに住む94名のARS(急性放射線症)生存者と99名の非ARS の健康状態を継続して調査したところ、20年を経過した現在では両者に差がなくなり、むしろ、慢性的な心理的ストレス、栄養不良、不安定な社会的・経済的な状況といった要因の影響が大きいことを示す研究(Bebeshko et al.(2006))などから、事故によるストレスが健康に与えた影響は、放射線そのものが与えた影響よりも大きいのではないかとする研究も存在する。(金子(2007))

◇放射線以外の要因も軽視してはならない◇
一般論として学問は過去に起こったことの分析はできるが、将来起こることの予測となるとなかなか難しい。天気予報のように日々繰り返し起きることを予想することに比べると、めったに起こらない原発事故の先行きを見通すことは容易ではない。福島で起きることがチェルノブイリで生じたことと、どれだけ似るのか、あるいは異なるのかはかなり先にならなければ分からないであろう。

しかし、過去に一度だけあった事例において、放射線よりもストレスや人間関係が大きな影響を与える可能性があることは肝に銘じておいたほうがよかろう。

誤解を招かないために付け加えるが、筆者は放射線が健康に与える影響を否定するものではない。それと同時に、放射線以外の要因を軽視するべきではないと考える。放射線量が高く避難せざるをえない地域もあろうが、避難によって人間関係が毀損されることで健康に問題が発生した場合、これも原発の事故に伴う損害と考えるべきであろう。

現実問題としてこうした損害に対して補償がなされるのかどうかは不明確である。しかしながら、これまでの研究を踏まえると、単に放射線を浴びなければそれでよいというだけでなく、被災者がどこに避難するにせよ、あるいは居住を継続するにせよ、ストレスや人間関係を考慮しなければ被災者の健康を守ることができないことは容易に予測されるのだ。

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プロフィール
河野敏鑑(こうの・としあき)
1978年生。東京大学大学院経済学研究科修了。富士通総研経済研究所上級研究員。専門は社会保障・医療経済・公共経済。編著書に『会社と社会を幸せにする健康経営』(田中滋氏・川渕孝一氏と共編 勁草書房 近刊)。その他、「社会保障を巡る議論で忘れられがちな論点-社会保障は「保険」である-」「「負けないで」は不況だからヒットしたのか」等のエッセイや学術論文も執筆。


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